アイドルのMVはなぜ廃校・採石場・秘境駅で撮るのか|ロケ地選定から読む映像の意図

おしたび編集部

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2026年8月17日

アイドルのMVはなぜ廃校・採石場・秘境駅で撮るのか|ロケ地選定から読む映像の意図

アイドルのミュージックビデオを続けて見ていると、あることに気づきます。選ばれている場所が、観光地ではない。

廃校になった高校。稼働中の採石場。地下50mの治水施設。役目を終えた空港駅の遺構。人口が減り続ける炭鉱の島。どれも「きれいな景色」ではありませんし、わざわざ足を運ぶ場所でもありません。

それなのに、こうした場所が繰り返し選ばれています。

この記事では、当サイトに登録されている433か所の実在するロケ地を横断して、なぜその場所が選ばれたのかを読み解きます。撮影場所は演出の一部です。そこを知ると、同じMVがまったく違って見えてきます。

理由1:曲のコンセプトを、場所そのもので表現している

最も分かりやすいのがこの型です。歌詞やダンスで説明する代わりに、立っている場所に語らせる。

BE:FIRST『Mainstream』— 地下50mと地下38m

このMVは2か所で撮られています。ひとつは埼玉県春日部市の首都圏外郭放水路。地下約50mに造られた世界最大級の治水施設で、72本の巨大な柱が並ぶ調圧水槽が「防災地下神殿」と呼ばれています。もうひとつは都営大江戸線新宿駅の長大なエスカレーター。大江戸線の新宿駅はホームが地下約38mと全国有数の深さで、地上との間をつなぐエスカレーターが非常に長いことで知られます。

曲のコンセプトは「地の底から頂点へ」。2か所とも「地下」で、片方は上昇装置そのものです。ロケ地の選定がコンセプトの表明になっている、非常に分かりやすい例といえます。

この視点でもう一度MVを見ると、冒頭の柱が林立する空間が単なる「かっこいい背景」ではないことが分かります。

HANA『Drop』— 対照的な2つの駅

BMSGのHANAのプレデビュー曲は、性格が正反対の2つの駅を使い分けています。

ひとつは千葉県の東成田駅。1978年に成田空港の玄関口として「成田空港駅」の名で開業しましたが、1991年に空港ターミナル直下へ新路線が通ったことで役目を終え、利用者が激減しました。当時のままの通路やホームが残る、いわゆる秘境駅です。

もうひとつは神奈川県の湘南台駅。相鉄・小田急・横浜市営地下鉄の3路線が乗り入れる、利用者の多い乗換駅です。

終わった駅と、動いている駅。 デビュー前のグループが「これから出発する」ことを描くのに、この対比以上に的確な舞台はなかなかありません。

東成田駅

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理由2:撮影の自由度が、その場所にしかない

映像制作には現実的な制約があります。稼働中の施設では長時間の撮影ができません。

廃校スタジオという解

FRUITS ZIPPER『フルーツバスケット』が撮影された群馬県のKIRINAN BASEは、閉校した旧・桐生南高校を活用した撮影スタジオです。体育館・教室・渡り廊下が当時のまま残っています。

RIIZE『Love 119』のたちかわ創造舎も同じ発想です。2004年に廃校になった旧多摩川小学校の校舎を使い、2015年に文化施設として開設されました。教室、廊下、屋上が当時の状態で保存されています。

稼働中の学校を借りると、授業のない日に限られ、生徒のプライバシーにも配慮が要ります。廃校スタジオなら貸し切って自由に使える。 そのうえ、日本の学校建築は世代を超えて共通のイメージを持つため、「青春」を説明なしに成立させられます。

実際、稼働中の学校で撮られた例もあります。僕が見たかった青空のデビューシングル『青空について考える』は埼玉県の西武学園文理中学校・高等学校で撮影されましたが、これは同校の生徒の呼びかけをきっかけに実現した企画でした。卒業するメンバー2名への花束贈呈も校内で行われています。例外は、こうした特別な経緯があってこそ成立します。

実際の渋谷では撮れないから、渋谷を作る

栃木県足利市の足利スクランブルシティスタジオは、足利競馬場跡地に2019年に造られた屋外オープンセットで、渋谷スクランブル交差点を実寸大で再現したものです。=LOVE『呪って呪って』のメインダンスシーンがここで撮られました。

本物の渋谷スクランブル交差点は、通行人が絶えず、長時間の占有もできません。「渋谷のような場所で、渋谷ではできない撮り方をする」 ためのセットです。

理由3:スケール感が、その場所にしかない

松井建設採石場(茨城)— BE:FIRST『Sailing』

約7ヘクタールの採石場で、岩肌がむき出しの荒野のような地形が広がります。メンバー7人が岩場でパフォーマンスをする映像に、この規模の背景は不可欠でした。

同じような「荒野」をスタジオのセットで作ろうとすれば、莫大な費用がかかります。関東でMV・PV撮影に採石場が使われるのは、他では代替できないスケールを持っているからです。

池島(長崎)— BE:FIRST『ALL DAY』

長崎市の沖合に浮かぶ島で、かつて炭鉱で栄え、閉山後は人口が大きく減ったことから「第二の軍艦島」とも呼ばれます。白いコンクリートの炭鉱アパート群や高い煙突が映像に使われました。

ここで重要なのは、軍艦島と違って池島は今も住民が暮らす有人島だという点です。無人の廃墟ではなく、人の生活が続いている場所の風景が使われています。

押戸石の丘(熊本)— STARGLOW『Star Wish』

阿蘇の外輪山にあたる標高約600mの草原地帯です。巨石が並び、遮るものがない空が広がります。BMSGが初めて世に送り出したガールズグループのデビュー作に、この開放感が選ばれました。

押戸石の丘

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理由4:日常の風景であることに、意味がある

逆の発想もあります。あえて何でもない場所を選ぶ。

NewJeans『Hurt (250 Remix)』— 名古屋の鉄橋

名古屋市西区を流れる庄内川に架かる名鉄の鉄橋付近です。赤い名鉄電車が鉄橋を渡る場面が撮られました。観光地でも名所でもなく、川沿いの土手と鉄道橋という、その街の人にとっての日常がそのまま映像になっています。

NewJeansがAAA2022への参加で名古屋を訪れた際に撮られたもので、「そこにあったもの」を切り取った映像です。

ILLIT『時よ止まれ』— 住宅街の小さな公園

新宿区市谷加賀町の加賀公園は、遊具と芝生がある区立の小さな公園です。夏休みの最終日という設定で、メンバー5人が遊具や芝生で過ごす場面が撮られました。

楽曲のテーマは「クロノスタシス」──時が止まったように感じる現象。特別な場所では成立しない題材です。どこにでもある公園だからこそ、「この時間が続けばいい」という感情が伝わります。

RIIZE『Love 119』— 生活道路の橋

大田区西蒲田で呑川に架かる馬引橋は、生活道路の小さな橋です。橋名は、かつて材木を積んだ船を曳くため両岸を馬が歩いたことに由来します。メンバーが橋を駆け抜ける場面が撮られました。

初恋をテーマにしたMVで、全編が日本で撮影されています。府中競馬正門前駅(単式ホームだけの小さな終着駅)、たちかわ創造舎(廃校)と合わせて、いずれも「特別ではない日本」を集めた構成になっています。

理由5:メンバーごとに場所を変える

近年増えているのが、1曲のなかでメンバーごとに撮影地を分ける構成です。

IVE『REBEL HEART』は、メンバー6人が東京の各所を個別に巡ります。REIさんは小田急線南新宿駅(新宿駅の隣にありながら各駅停車しか止まらない小さな駅)と渋谷ストリームの川沿いデッキ。ISOさんは芸能花伝舎(廃校になった旧・淀橋第三小学校を活用した文化施設)。そして中盤、全員が揃う場面が埼玉の東武動物公園で撮られています。

aespa『Hot Mess』も同じ構成で、カリナさん・ウィンターさん・ジゼルさん・ニンニンが新宿の別々の場所で撮影されました。ジゼルさんの場面は新宿3丁目のユニカビジョン周辺です。

嵐『君のうた』もこの型で、大野智さんは大横川親水公園、二宮和也さんは吾妻橋の英語書店Infinity Books Japan、櫻井翔さんは蔵前の結わえる 蔵前本店、松本潤さんは喫茶ランドリー(洗濯機やミシンを備えた「まちの家事室」がある一風変わったカフェ)。4か所とも隅田川の東側に固まっており、1日で歩いて回れる範囲に収まっています。

乃木坂46『歩道橋』はさらに徹底していて、曲名どおり橋と歩道橋だけで構成されています。遠藤さくらさんは銀座の昭和通り歩道橋(愛称「ときめき橋」)、久保史緒里さんと井上和さんは晴海大橋、賀喜遥香さんは有明の夢の大橋。3か所とも性格の違う橋です。

ロケ地から見ると、MVは二度楽しめる

こうして並べると、ロケ地の選定には明確な理由があることが分かります。

選定の型
コンセプトを場所で表現BE:FIRST『Mainstream』(地下2か所)、HANA『Drop』(終わった駅と動いている駅)
撮影の自由度廃校スタジオ、実寸大の渋谷セット
スケール採石場、炭鉱の島、阿蘇の草原
日常であること名古屋の鉄橋、住宅街の公園、生活道路の橋
メンバーごとに分散IVE、aespa、嵐、乃木坂46

一度目は曲とパフォーマンスを楽しむ。二度目は「なぜここなのか」を考えながら見る。 制作側が場所に込めた意図が読めるようになると、同じ映像から受け取れるものが変わってきます。

そして三度目は、実際にその場所に立ってみる番です。

実際に行けるかどうかは、場所によります

ただし注意が必要です。この記事で挙げた場所のうち、採石場・撮影スタジオ・稼働中の学校には立ち入れません。 撮影は許可を得たうえで行われたもので、一般に開かれているわけではないからです。

一方で、加賀公園・馬引橋・晴海大橋・大横川親水公園のように誰でも行ける場所や、東成田駅・南新宿駅のように乗車券があれば入れる駅もあります。首都圏外郭放水路は予約制の見学会で中に入れます。

当サイトの各スポットページでは、アクセス・営業時間・立入可否・撮影可否と、その情報をいつ確認したかの日付をまとめています。行く前に確認してみてください。

行けない場所については、行っても入れない聖地20選に理由つきで整理しています。駅のロケ地をまとめて回りたい方は駅が聖地になったMVロケ地12選もどうぞ。

地方で撮られたMVの例としては、JO1『Your Key』の父母ヶ浜(香川)坂道グループの静岡・伊豆のMVロケ地が分かりやすい例になります。

晴海大橋

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※各施設の公開状況・営業時間・立入可否は変更される場合があります。訪問前に必ず公式情報をご確認ください。

よくある質問

Q. アイドルのMVに廃校がよく使われるのはなぜですか?

A. 撮影の自由度が高いためです。稼働中の学校は授業があり、生徒のプライバシーもあるため長時間の撮影ができません。廃校を活用した撮影スタジオなら、教室・体育館・廊下・屋上を貸し切って使えます。加えて、日本の学校建築は世代を超えて共通のイメージを持つため、「青春」を説明なしに成立させられるという利点もあります。

Q. MVのロケ地はどうやって特定されているのですか?

A. 確実なのは、公式MVの映像そのものと、公式サイト・公式SNSでの言及です。当サイトでは、まとめサイトやファンブログの情報は出典として採用せず、公式YouTubeで公開されているMVと、番組・作品の公式ページで裏付けが取れたものだけを掲載しています。

Q. 同じ場所が複数のグループのMVに使われることはありますか?

A. あります。とくに撮影用に貸し出されている施設(廃校スタジオ、オープンセット、イベントスペース)は複数の作品で使われます。この記事で紹介する足利スクランブルシティスタジオのように、渋谷スクランブル交差点を実寸大で再現したセットは、実際の渋谷では取れない画を必要とする作品が繰り返し利用しています。

Q. ロケ地を知るとMVの見え方は変わりますか?

A. 変わります。たとえばBE:FIRST『Mainstream』が「地下50mの治水施設」と「地下38mから伸びるエスカレーター」の2か所で撮られていると知ると、「地の底から頂点へ」という曲のコンセプトがロケ地の選定そのものに表れていることが分かります。撮影場所は演出の一部であり、そこを読むと制作側の意図が見えてきます。

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